読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

広島 スタジアム問題について ~だんごファーム別館~

元サンフレッチェファンが思うこと

【広島 スタジアム問題 5 】 「Jリーグ再建計画」を読んで考えるスタジアム問題

今日においてもスタジアム問題は進展する気配を見せない。これまで主としてクラブに対する提言を書いてきたつもりなのだが、これをずっと言っていても埒はあかないし、自分自身も少し視点を変える必要があるように感じてきた。

そもそも、サンフレッチェは何故これほどまでにスタジアム建設を急ぐのか。スタジアム建設の必要性を考えるには、施設基準などを規定した”クラブライセンス制度”についても知る必要がある。そこで読んでみたのが「Jリーグ再建計画」という1冊の本だ。

 

 この本が発刊されたのは2014年5月。この時にはすでに2015年からの2ステージ制が決定されていた。批判の多かった2リーグ制導入だったが、Jリーグの実情を曝け出して問題点を挙げながら、Jリーグの進むべき未来を考えようといった内容である。

本来は2ステージ制の議論が行われている最中にこのような本が出ていれば、選手やサポーターの感情も違ったものになっていたはずだ。しかし、後出しの懺悔本だとしても読んでおいて損は無い。広島のスタジアム問題についても関連性がある項目もいくつかあったので、感想も交えながら書いていきたい。

 

「しっかりと地元に根づいていれば協力が得られる」

この本の中では色々なデータを上げながら、世間一般でのJリーグに対する関心が低下しているという事が示されている。その中ではスカパーの放映権料の話や、電通、博報堂といった日本を代表する大手広告代理店が頑張ってもスポンサー枠が売り切れない話などは具体的な金額とともに書かれていて、このままでは2014年以降13億円減収の見込みになるとしている。これだけありのままを書かれれば、2ステージ制導入に納得は出来なくても理解は出来る。この辺りはこの本が狙っていた通りの感想を抱いてしまって、それはそれで少し悔しくもあるのだが、クライアントに惜しみなく情報公開する姿勢は大事だろう。特に、賛否両論あるような決定事においては。

 

この本で一番知りたかったクラブライセンス制度については、国内だけではなく、アジアに向けた視点の中で書かれている。この本の中ではJリーグではなく、AFC(アジアサッカー連盟)の働きかけで導入されたとしている。AFCとしてはACL(アジアチャンピオンズリーグ)の価値を、行く行くはヨーロッパと同じ程度まで高めたいという思いがあり、その為にはアジア各国のクラブ経営基盤を底上げしたいとの狙いがある。今はヨーロッパのビッグクラブに投資されているアジアマネーを、いずれはアジアの為に使っていくという仕組みを構築したいと考えているのだ。個人的にはその心意気は素晴らしいと思うし、ライセンス制度の大義名分としては概ね理解できる。

 

ただし、その中でのスタジアム基準については、Jクラブの現状を鑑みた時には、ややハードルが高い。屋根の有無からトイレの数まで厳格に決められた基準をクリア出来るクラブは一部でしかない。そしてこのスタジアム基準こそが、サンフレッチェをスタジアム建設に駆り立てる大きな要因の一つだ。「J3降格」や「クラブ消滅」だのと、一部が騒ぎ立てる根拠はここにあるのだろう。しかし、現状ではJリーグもすぐには出来ないこともわかっているため、訓告といった措置にとどまっている。実際にカテゴリー降格を課せばJリーグそのものが成り立たなくなる可能性もあるので、制裁を受ける可能性は現状では低いように思う。

むしろ、このスタジアム基準を定めた狙いは、こういった項目を盛り込むことによって、地域の自治体や地元の協力を得やすくすることにある。実際にこの本の中で佐藤寿人Jリーグ選手会会長はこう語っている。

 「スタジアム改修に際しても、しっかりとクラブが地元に根づいていれば協力も得やすいだろうから、ライセンスを作った部分は良かった」

 

そう。「しっかりと地元に根づいていれば」。

 

横浜Fマリノスと川崎フロンターレから学ぶ点

 

この本の中で一番興味深かったのは、構造改革を進めるクラブの一例として、横浜Fマリノスの嘉悦社長(当時)の取り組みが紹介されていた章だ。2009年夏、日産本体からやって来た嘉悦社長はクラブの責任会社(横浜で言えば日産)に頼らなければならないクラブ体質の改革に乗り出した。その中で取り組まれてきたことが、自分が今までこのブログで主張してきたことに近く、共鳴する部分が多かったので例を挙げていく。

まず、マリノスは日産の補填をやめ、赤字であることを公にした。この事を公にすることでクラブ内で強い危機感を共有して一致団結を図ることはもちろんのこと、外部に対しても「売上を伸ばす為にこんな新しい事をやるようになったんだ」という共感、理解を得ることに成功する。先に挙げたJリーグの減収予測よりずっと前に横浜Fマリノスは行っていた。

そして、嘉悦社長が最も力を入れた取り組みが集客である。古い歴史を持つ横浜Fマリノスは認知度としてはJクラブの中でも有数だ。しかし、「認知」から「親近」へと移行するために、まずは親しみを持ってもらうような施策を行った。一つ例を挙げれば、より効率的にクラブに親近感を持ってもらうため、スタジアムがある港北地区で集中的にホームタウン活動を行っている。もともと小学校の訪問回数は年間で250校に及ぶというからこれだけでもかなり驚いたのだが、その密度をさらに濃くする為に、トップチームの選手を2名ずつ派遣して交流を深めたという。さらに、児童全員に試合日程や選手名鑑がプリントされた下敷きを配る。こうすることによって、児童はクラブに親しみを持ち、スタジアムに足を向ける。まずは、広域から呼び込みを図るのではなく、地元の持つポテンシャルを最大限に活用するという手法だ。その結果、改革前には1試合平均1000人しかいなかった港北地区からのの来場者は倍以上の2200人に増えたという。それでも嘉悦社長は「人口30万人以上いる港北地区のポテンシャルからすればまだまだ」と当時語っている。

その他、横浜ベイスターズとのタイアップやホスピタリティの向上など様々な施策を取り組んだ結果、成績に左右される部分はあるものの(優勝争いをした2013年が最高)、改革前より、明らかな増加傾向を続けている。つまり、やるべきことをやれば観客動員数はもっと増える可能性があるということの証明といえる。

 

 川崎フロンターレの事例も紹介されている。収容人数が22,000人の等々力競技場でフロンターレは1試合平均19,000人(2009年時点)を集めていた。スタジアムのキャパを考えれば限界値と言っていい数字だ。そこで川崎フロンターレは20年先、30年先を見越してスタジアムの質の向上や安全性の強化の等を目的としてスタジアム改修を要望した。2001年には1試合平均3000人だったものを、ここまで集めるに至ったのも川崎フロンターレの並々ならぬ営業努力あってのことだろう。フロントスタッフのユニークな仕掛けは有名だが、それ以外にも地道な活動もあったはずだ。そしてそれが限界値にまで達したうえでようやく自治体は動く。今、満員に出来ないスタジアムが改修されたからといって集客が保証されるわけではないからなかなかOKを出すことはない。そこでフロンターレはスタジアム改修の嘆願書をクラブ独自で集めるのではなく、「等々力競技場の全面改修を推進させる会」を発足させ、川崎の町の総意であることをアピールする作戦に出た。会長には川崎の重鎮である人物を迎えたり、陸上競技会の協力を得るなど抜かりも無く進めた結果、22万人の署名を集めて議会に提出され、可決された。

フロンターレの武田社長(当時)は「改修に際しては多くの人が協力してくれた。こういう時にはいろいろな人に相談するべき。物事を成し遂げるにはいろいろな人の力を借りなければいけない」と述べている。

 

スタジアム建設は「急がば回れ」

紛糾する広島のスタジアム問題についても、先に紹介した2クラブの取り組みに学ぶべきことは多いと思う。横浜においても川崎においても、自分達が望むべき事をやろうとするのであれば、まずは集客を持って示すという事を体現している。こうやって書けば「横浜や川崎は大都市なんだから地方都市の広島と一緒にするな」と言われるかもしれない。しかし、横浜Fマリノスが行った港北プロジェクトなどは、地元の安佐南区で行う事も可能かもしれない。安佐南区の人口はサンフレッチェの年間動員数とさほど変わらない約24万人いる。こうした考えの一つだってあってもいいはずだ。また、川崎フロンターレが観客キャパシティで苦しんでいた事を考えると、跡地の独自プランで計画される25,000程度が本当に正しいのかどうかはもう一度精査する必要がある。これを言ったところで、跡地支持者はどのみち聞く耳を持たないだろうが、少なくとも、アウェイ側の観客席をくり抜いて原爆ドームを眺めながら試合をするというギミックは再考の余地があるのではないかと思うし、さらに言うと派手な紫主体の外観図も周囲との調和を考えるべきだろう。自分達の主張を押し通すだけではいつまで経っても平行線のままだ。

先日、Twitterで「もっとスタジアム建設の熱量を上げよう」という論調でTLが盛り上がっていたが、無関心層を呼び起こすなどは一朝一夕に出来るものではないし、時間も非常にかかる。加えて、サンフレッチェがコンテンツとして争わなければいけないのはカープだけではない。テレビを付ければヨーロッパのリーグがリアルタイムで見られる。スマホ、オンラインゲームに若年層はお金を消費する。有名レジャー施設は次々と話題作りをしかけて、広域から人を集めようとしている。そんな中で、サンフレッチェはプライオリティを高めなければいけないのだから大変な事なのだ。そして、スタジアム問題が叫ばれる今だからこそ、クラブは集客に全精力を注ぐべきだ。7月はホームゲームが4試合も行われる。スタジアム建設の機運を高める事も大事だとは思うが、このホームゲームでどうやったら無関心層に来てもらえるか考えた方が、結果的にはスタジアム建設への近道になるのではないだろうか。今スタジアムを埋めれないものが、市民球場跡地に行ったところで集客できる保証などないのだから。そして、今のホームゲームの魅力を向上させることは、仮に新スタジアムが建った時にもノウハウとしてきっと生かされるはずだ。

 

最後に嘉悦社長が退任の際に発表したコメントで印象的な部分があったので引用させてもらう。

この在任期間中、私は経営者として「やりたいこと」はほとんど何も出来ませんでしたが、「やるべきこと」については、ほぼ全てをやり切ったと判断しています。Jクラブの経営において、この「やりたいこと」と「やるべきこと」は残念ながら概ね相反する関係にあります。そして経営者が「やりたいこと」に舵を切った場合、将来に禍根を残すリスクが極めて高いことは、当クラブや他クラブにおける過去の事例を見れば明らかです。